読了本

水魑の如き沈むもの (ミステリー・リーグ)

水魑の如き沈むもの (ミステリー・リーグ)

水魑の如き沈むもの/三津田信三
厭魅、凶鳥、首無、山魔に続くシリーズ長編第5作目。各タイトル、未だに上下を間違える(忌むのは、祟るのはどれだっけ?と)。そして今回も相変わらず人名と地名の読みが凝っていて覚えるのに苦労した。でもこういうこだわりは嫌いじゃないので黙って暗記。推理を組み立てては壊し、徐々に真実に近づいていく素人探偵というスタンスはいつもと同じでも、今回はひと味違う感じのする部分がいくつかあった。
言耶が出会う他の事例と地続きであることがはっきり示されていたのには少々驚いた。事件はそれぞれ独立してるのかと思っていたけれど、シリーズでない作品も含め「三津田ワールド」としてあちこちリンクしてるらしい。言耶シリーズしか読んでないから他のも読まなきゃなぁ……。「厭魅」はこないだ読み返したばかりなのに“左霧”の立ち位置がおぼろげだ。そもそも時系列は「厭魅」より前の話になるのかな? あとで確認しとこう。そろそろ全体の年表がほしいところ。
常になく超常色、オカルト色も強かった。言耶シリーズでない他の純正ホラーは常にこんな感じなのかもしれないけど。偲まであきらかな怪異を体験するとはね。それになんだか正一は夏目タカシ君みたいでしたよ? このシリーズでこちら側にいながらにして向こう側の力を持ってる人間は初めてじゃなかろうか。あの能力がこの巻だけで終わりじゃもったいないな、退魔ものとかのスピンオフが出たりしないのかしら。あるいはもうあったり?
ハッピーエンドっぽい終り方も珍しかった。あの彼好きだったからよかった、と思いつつも龍吉朗のことがあるから素直に喜べんのよね。言耶の朴念仁っぷりをもっとつついてほしかったのにさ〜。龍璽にはもっと苦悩し恐怖してもらってもよかったくらいだが。その後の正子はどういう思いを抱えながら生きたのかなぁ。あれってほんとにハッピーエンドなのかね……あんな体験のあとでも彼岸に行かないなんて、恐ろしいほど現実的でしたたかだ。でも確かに初めっからそういう性格だと描写されてたな。
ブコメ色がやたら強かったのも印象的。どこが良いのか(顔?)偲は完全に言耶を意識してるんだな。夫婦漫才バンザイ。座敷牢のくだりは偲たん逃げてー! と叫びたくなるくらい怖かった。なのに、あんな怪異のあとでもぴんしゃんしてる偲ってば……恐ろしい子! 立春なんか壊れたのにな。でも一番恐ろしいのはアレになんの解釈もほどこさずサクッと放置の三津田さんかもしれない。