読了本

ファミリーポートレイト

ファミリーポートレイト

心の中でなにかがかすかに動く。
ちょっと人間らしくなった気がして、安堵する。
恋は地図にのってないちいさな島のようだ。
そしてあたしは、その上空を戸惑いながら旋回する、つまらない鳥みたいに相変わらず貧しい。
風鈴がまた鳴る。
             ――第二部四章「ポルノスター」より


「走れ走れ、私の忠犬コマコ!」と楽しげに娘に叫ぶような、美しくて奔放な母を失った後の、自尊心はないけど卑屈ではない娘がひとりで生きていく姿を描いた……私小説? 読んでてどうしても駒子に桜庭さんの顔がだぶってしまう。編集の是枝なんてよくブログに登場するK氏みたいだもんねぇ。知らないけど。小説と事実とはぜんぜんかけ離れているのだろうに、親御さんも気が気じゃないだろうなあなんて余計な心配をしてしまう。ちいさなコマコがママと旅をした十年間を描いた第一部は現代のメルヘンみたいで、また真紅かよぉ、となかばうんざりしながらも惹き付けられずにはいられなかった。第二部になるとずいぶん雰囲気が変わってくる。第一部は昭和の香りぷんぷんだけど、第二部はなんとも平成の雰囲気だよねえ。私は他人の私生活を覗くのが苦しくて、物語でないと安心できない人間だから第二部の虚構らしくないところがちょっと辛かった。でも真田が言った「幸福から立ち直る」ってのは何となく分かるし説教らしくなくて面白いと思った。ラストもきまってたな。その一方で、マコはどうして桜ヶ丘から逃げたのか、そこが語られなかったので今ももやもやする。駒子の前から永遠に去ったときの幻視が繰り返し脳裏に再生される……。これだから身を削って描かれた小説は読むほうも消耗するのだ。