読了本

回帰祭 (ハヤカワ文庫JA)

回帰祭 (ハヤカワ文庫JA)

うむむむむむむ、途中までは面白かったんだけど、このオチは……。結構アツに入れ込んでいたので何だか意気消沈してしまった。これはあれじゃないですか、いわゆる寝取られエンドとかいうやつ(よう知らんけど)。読みながら田村由美7SEEDS』の冬のセクションの話を思い出していたら、ほんとにそういう系の話だったうえに例のやつらがやり逃げしていったのもあって、なんかこうスカッとしないというか。でもこういう感じが小林めぐみの作風なのかな。他には『食卓にビールを』しか読んでないので分からないが。せめて3人が再会するとこまで描いてほしかったかも……ただそうなるとアツがあまりにも可哀相かなあ。どうでもいいけどヒマリは将来DV妻になりそう。イナフから受けた暴力の連鎖で。

追記(2008/12/25)。
日本のエンタメ手法では女の子が男の子を殴るのは割と普通のギャグ表現だ。かなめが宗助をハリセンで殴ったり、あたるにラムが電撃をくらわせたり、手乗りタイガーが木刀持って暴れてもそれは「暴力」とはちょっと違う。性別が逆だとちょっとシャレにならないが、男が男を殴る場合ならギャグに昇華しうる。
どつき漫才というものがあって、お笑いでツッコミが相方をどつくのは芸のうちだ。私は去年のM-1はどつきが芸に見えなくて楽しめなかったのに、今年はまったく気にならなかった。1年のあいだに慣れてしまったらしい。この伝統的な「どつき芸」はアニメやマンガなどにも広く流用されている。だが海外のアニメファンの中はこれが暴力にしか見えず、とまどう人もいるようだ。
可愛い女の子が凶暴――というのは今では萌えポイントのひとつで、割と許されているネタだと思う。ヒマリはしょっぱなからイカやアツを殴るのだけれども、この時点では私も微笑ましいじゃれあいくらいにしか思っていなかった。が、イナフの登場でヒマリがじつは酷い家庭内暴力にさらされていた事実が判明する。
こうなるともうギャグ表現とは受け取れない。ヒマリは兄にやられたのとおんなじことを他人にやってるんじゃん、しかも反射的に、無自覚に……。こええ。超怖え。「なんで殴るんだ」「あんたが殴られるようなことをいうからでしょ!」って、いやいや殴られるほどのことでは。ライカがむりやりキスしたとこくらいだなぁ、ありだと思ったのは。
最後には殴ってごめんとあやまるんだけど、なんか反省が甘いというか、暴力を振るったということを問題として認識してない感じで。イナフの死後も相変わらずライカを殴っちゃうのは、いまだに呪縛から解き放たれてないってことだよね。そのへんが将来も周囲の人間、おもに家庭内で手を出しそうと感じさせたゆえんだが、同時にかすかな希望を予感させて終ったこの物語が本当に「そう」なのか悩ましくなってきてしまった。
ヒマリがDV妻になる疑惑があって、ライカは貧乏くじで。実はアツの無事もはっきり描かれてなかったり。ライカはまた会えるつもりでいるようだが、この先に待っているのは悲劇なのではないか? ウナギ博士のオリジナルはほんとに善人? 例のやつらがダナルー市民に残した後遺症は? 疑い出すときりがない。
小林めぐみが普段からそういうブラックな要素を作品にしのばせておく作家かどうか知らないし、おそらくは悪いほうへ悪いほうへと考えがちな私のうがちすぎな妄想なのだろうが、そんなわけで私のなかでは『回帰祭』は「ちょっぴり怪作」認定である。