罪と罰(バチ)

id:ruyueさんの日記を読んで考えたこと。
http://d.hatena.ne.jp/ruyue/20071026#p1

そういえば私もつい先日同じような気持ちを味わったっけ、と思い出したのが『キラメキ☆銀河町商店街4』asin:4592181239。そのなかで飲み物を図書館の本にこぼされたことから仲のよい友人同士でケンカが始まり「弁償しろと言われたら半額出してね」で仲直りする話があったのだ。
お金の問題じゃないよー、図書館の本として装備を整え保守しつづけるのにどれだけ手間がかかっていると思うのか、それに絶版でもう買えないものも多いんだからそんなに軽く言わないでよー、と本編はハッピーエンドにもかかわらず読後感はハッピーからは程遠かった。この漫画を読んだ若い人がこれでいいのだなと思ってしまわないかという不安もあったし。

図書館にとって、本を借りて返さない人はほんとうに頭の痛い存在だ。「今日の早川さん」のフネちゃんひとりくらいなら可愛いものだが、現場ではこれが百人、千人単位でいるわけで。皆がちょっとくらいとゴミやたばこを投げ捨てれば道はごみためになり、皆が1冊くらいと本を私物化すれば図書館の蔵書はスカスカになる。
破損、紛失本の損害としていくらになると統計は出せるけれど(それはもう聞いたら驚くような金額になるはず)、読めなくなった利用者の不満や悲しみ、何度空振っても督促しつづけねばならない図書館員の虚しさ、無断で持ち出されて行方すら追えないやりきれなさなどは数字に換算することはできない。

ただ、図書館の本を借りたまま返さないというのは、行為としてはたしかに本屋での万引きとあまり変わらないのだけれど、これが犯罪とされないのはひとつには図書館側が利用者を罪人として告発するにしのびなかったからではないだろうか。たいていの人は悪意があるわけじゃなく、軽い気持ちで返さないだけなのだから……と。
図書館員の悔しい気持ちは分かりすぎるほどに分かるけれど、いま私たちがそういう人たちを盗っ人扱いしたら、それは先人たちの苦労と忍耐を無駄にすることにならないだろうか。奇麗事であることは重々承知のうえで言うのだけれど。すでに広く導入されているブックディテクション・システムは「無断で持ち出す人がいる」というのが前提なわけだし。

公共施設の利用は性善説に基づいているのだなあとつくづく思う。しかしこのままモラルの低下に歯止めがかからないと将来はわからない。マナー無視は徐々に浸透しはじめている。でもそれは自分で自分の首を絞めているのと同じことだ。遠からず借りたい本が行方不明でがっくり、という体験が己が身にも降りかかるだろうから。
図書館の本に対する世間の認識をゆるめる一因を漫画が作ったなら、その逆もまたしかりだ。漫画家さんたちにとって図書館は愛憎なかばする存在かもしれないが、もしこの認識の軽さをいましめつつも説教臭くなく痛快で面白い物語を描いてくれたら、私は張り切って周囲にすすめまくるのだが……。

と、他力本願ばかりしてもいられまい。ただマナーを押し付けるだけではなく、マナーを守るとどんな「いいこと」があるのかをPRすれば利用者の心を動かせるかもしれない。また逆転の発想で「利用者が図書館に返しに来たくなる」「返すのが楽しくなる」環境作りも必要なのではないかと思う。今は具体的なアイデアがあるわけではないけど、大々的にキャンペーンを張ったりするのもいいかと思う。
なにより私は司書さんが笑顔で気持ちよく貸してくれた記憶が返却する原動力のひとつになっているかなあ……。あの人の気持ちを裏切りたくないなあ、みたいな思いは確かに延滞抑止に一役かっている。司書も人間だから、怒らず腐らず燃え尽きずにサービスにつとめるのがときに難しい場合もあるけれどね。