家守

やもり、の話をしようと思う。
去年の終わり頃のことだ。冷たい小雨の降った朝、道に小さなやもりが落ちていた。寒さのせいか動作は鈍く、このままでは人に踏まれるか車に轢かれるかしてしまいそうだった。柴田よしきの都シリーズでやもり(ゲッコー)に親近感を抱いていた私はにわかに憐憫にかられ、家に連れ帰った。ミントのプランターに夜盗虫が出て葉っぱを食い荒らしていたので、それをやもりが退治してくれるかもしれないとの期待もあった。
やもりは翌日には姿を消したが、同時にミントの食害もなくなった。その後も姿は見せなかったけれど、動かした植木鉢の下にいて「驚かしてスマン」と謝ったことが一度あった。この狭いベランダのどこかに棲みついてくれたのかと思うと愉快だった。

おととい、植木に水をやるため物置からバケツを取り出したら、底にやもりが落ちていた。すでに死んでいた。……寿命? あるいは誤って落ちて登れなかった? プラスチックのバケツを? そんなことがあるのか? あるのだとしたら乾きと飢えがやもりを襲っただろう。冬は週に1度くらいしか水遣りをしない。だから見つけるのが遅れた。もう1日早ければ助けられたのだろうか。可哀想なことをした、と今も胸が痛む。