読了本

コンニャク屋漂流記

コンニャク屋漂流記

コンニャク屋漂流記/星野博美
この変わった「屋号」は、かつて外房で漁師をやっていた自分の家のものである。祖父の手記を読んだ著者は、先祖がどんな人たちだったのか知りたくなった……。『ミドリさんとカラクリ屋敷』と同時期にルーツ探しのエンタメ・ノンフが出揃うなんて面白い。『ミドリさん』とは違い自らのファミリールーツを辿る旅なのでやや主観的だが、それだけに他人では分け入ることのできない深さまで潜りこんでいく。ご両親をはじめ量治さん、かんちゃんと素敵な人たちばかりだ。特にかんちゃんはかわいい(その後どうなったんだろう、ちょっと心配……)。
楽しい親戚たちのあいだを巡り歩いて、ついには祖先がやってきた地である和歌山まで出かけていく。そこは誰ひとり知る人がいない土地で、親切な人もいれば拒絶する人もいた。この部分は身につまされたけれど、それまでとは違ったスリリングな展開が続き、思わずページを繰る指が早まった。2008年4月から「本の話」での足かけ3年の連載だった。外房の話だからもしかして……と思っていたら最後に3.11についてふれられていた。カバーの写真は文中でも出てきていた「万祝」だね。装丁者の仕事ではあるのだろうが、著者の“祈り”が込められているような気がしてならない。